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きがちたいをあるく

飢餓地帯を歩く

下村 千秋

――東北農村惨状報告書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页

青空文庫

一

一

また雪が降り出した。

もう一尺五寸、

手の指も足の指もちぎれそうだ。

しかし俺は喰いものをあさりに、

一人山へ登って行く。

俺はいつも、男だ男だと思って、

寒さを消しながら、

夢中で山から山をあさって歩く。

これは、青森県のある新聞に載せてあったもので、或る農村――八甲田山麓の村の一青年の詩である。詩としての良し悪しはここでは問題としない。只、この短かい詩句の中から、大飢饉に見舞われたこの地方の百姓達の、生きるための苦闘をはっきり想い浮べて貰えれば足るのである。殊に、

「俺はいつも、男だ男だと思って、寒さを消しながら、夢中で山から山をあさって歩く」という文句の、男だ男だと、ひとりで我ん張っているところが、あまりに単純素朴であるだけ、哀れにも惨めではないか。

私も、常陸の貧乏な百姓村に生れて、百姓達の惨めな生活は、いやというほど見て来た。また、東京へ出てからは、暗黒街にうごめく多くの若い女達、失業者街にうろつく多くの浮浪者達の、絶望的な生活も、げんなりするほど見て来た。そうして、人間、飢えということが、どんなことであるか、それはどんな結果を見るか、ということも、あらゆる機会あらゆる場合で見て来た。