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きがちたいをあるく

飢餓地帯を歩く

下村 千秋

――東北農村惨状報告書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页

青空文庫

軒の下には、一尺あまりの氷柱がずらりと寒い色にぶら下り、またその下には、めしの中へ入れて食べるための大根の葉、もろこしの穂などが繩にしばられ、幾重にも釣り下げられてあった。

家の中は、料金不払いで電燈も消されたとかで、炉の焚火で僅かに照らしている。炉端の一方には真黒な屏風が立てられ、そこに子供の着物やおしめがじっとりと掛けられていた。そうして、その屏風のうしろには、一枚の障子もなくて、ふだんの居間であり、めしを食う所であり、また寝る場所でもあった。そうしてまた、これと向い合った板仕切りの向う側は厩であった。それは、中に六尺巾の土間を挟むだけで、彼等が寝たりめしを食ったりする所と、九尺とは離れていないのであった。しかもその板仕切りは、隙間だらけなので、黒い馬の姿の輪廓がはっきりと見えていた。

この地方の百姓達には、馬もまた家族の一員である。だからこそ、南部馬の名に依って知られている良馬が出るのであろうが、これほどまで人と馬とが近々と寝起きしているとは、私はそれまで知らなかったのである。

蚤虱馬の尿する枕もと

これは、芭蕉の「奥の細道」の中の一句であるが、私はこの夜、この炉端にごろ寝しながら、この句を思い出し、この地方の百姓の生活ぶりは、元禄の芭蕉の時代も、昭和の吾々の時代も、少しも変っていないのだ、と思わず