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きがちたいをあるく

飢餓地帯を歩く

下村 千秋

――東北農村惨状報告書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页

青空文庫

これには私は合槌も打てなかった。

僅か二三円の手附金で、一人の娘が売られて行くと、東京の新聞にはあったが、それは新聞のよたであった。いかに純朴な百姓といえども、それほど愚かではない。しかし、百円から三百円ぐらいの金で、一人の娘が、或いは私娼に、或いは公娼に売られて行く例はザラにあるのであった。私はその実例を、蟹田村の近くのある部落で見たのである。

そこは、青森市から、乗合自動車で三時間ほど、陸奥湾を右に見ながら、泥と雪の道を走らねばならなかった。このあたりも、殆んど無収穫の地であった。しかし、百姓達の多くは、一方では漁夫でもあったので、いわし、たらの漁をして、今のところどうやら生きつづけているというのであった。が、それも一月一杯で、二月以後は、当分無漁となる。しかも、今までは年々、北海道から何百人とまとめて、漁夫を刈り出しに来たが、今年はてんで来ないという。ここでも、二月以後の生活は全く絶望であるというのである。

私は暗い思いで、揺られていた。それは一月二日の午後で、一旦止んだ雪が、またさんさんと降り出して来た。降り出すと、海面は、一面の灰色に鎖され、行く手の道も、半丁先は見えないほどであった。