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きがちたいをあるく
飢餓地帯を歩く
下村 千秋
――東北農村惨状報告書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页
「ひょっとしたら、吹雪になるだ」と、私の隣りの男が言っていたが、果して、六里ほど進んだところで、雪は、渦を巻いて走り飛び出した。と、私のうしろに坐っていた老人が言った。
「飢饉の上に、三日も吹雪いたら、この辺の百姓は、干死んでしまうだ。天明年間の飢饉年には、三万人からの人が干死んで、生き残った者共は、人間の肉、そいつも十七八の娘の肉がうまいというで、それが干死ぬのを待って食ったという話だが、うっかりすると、今年もそんなことになるだ。明治三十五年と、大正二年の飢饉はわしもよく知ってるだが、どっちも今年ほどじゃなかった。今年のような飢饉が来るというのも、いよいよ世が末になった証拠だ」
「だからさ、どうせ干死ぬなら、せめて一度でも、米のめしをげんなりするほど喰って見てえと思ってるだ」
「一度でも喰えりゃまだいいだ。岩手の山奥じゃ、茶碗一ぱいの米のめしを、家から家へ持ち廻して、目で見るだけで喜んでるちゅうだ。それほどだから、病人が出来ると、枕元へその米のめしを置いとけば、病気が直るとせえ言ってるちゅうだ。米を作る百姓が、米のめしを拝むことしか出来ねえとは、全く嘘のような話だよ」