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もち
餅
岡本 かの子
「読売新聞」1933(昭和8)年1月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,154 字 · 3 页
それがほんとのご馳走だ、といってね。無理にこしらえさせられたんですわ」
――ほかのご馳走はとにかく、餅だけはよく焼けてなかったな」
――ミッションスクールの寄宿舎に入って居た娘ですもの、プディングの出来かげんは知っていてもお餅の焼き方なんか、てんで興味を持って居なかったんですもの――それであんた、あの時、焼けそこないのお餅食べながらわたしを軽蔑なさったの?」
――その反対だ。こういう焼け損ないの餅なんか出す娘はなかなか純なところのある娘なんだろうと思った」
――あら嘘ばっかり」
――いや、ほんとうだ」
妻は一たん障子の内がわへ顔を引込めたが、今度は出来上った雑煮の汁を鍋ごと盆の上に載せて夫の居る座敷へ入って来て坐った。
――なま焼けのお餅を食べさせる娘がどうして純なの、あなた」
――まあ聞け、僕はそのとき結婚して居た友人の細君を知って居たんだがね、料理はうまいし家事万端非のうちどころも無いほど切って廻す。それで居て気持は打算的で冷たい女なんだ。友人はしじゅうこぼして居たよ。うちの家内はすべてを料理し過ぎるって。それをしょっちゅう聞かされて居たもんだからふいと出されたお前の生焼けの餅に妙に愛感を持たされてしまったんだ――」