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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

「だが、そんなものを買って、一体どうするつもりだい。」と私は重ねて尋ねました。

「先生も屹度お笑いなさるでしょう。下宿のお上さんも笑っておりましたから……。」そして彼はやはり一人でにこにこしています。

「僕は笑やしないよ。……一体どこに据えるんだい、そんな大きなものを。」

「窓の外に置くんです。」

「窓の外だって……。」

その時彼は不意に大きな声を立てました。

「先生を喫驚さしてあげましょうか。」

「え、何だい、不意に。」

「でも……。」と彼は声を落して一寸考え込みました。「先生は一度も私の下宿に来て下さらないから駄目です。」

「なに、行くよ、面白いことがあるんなら。」

彼は暫くじっと私の顔を見ていましたが、さも大事な秘密でも話すような風に云い出しました。

「私は自分の窓の外に、大きな庭を拵らえておるんです。」

「庭だって……。だが君の室は、二階だっていうじゃないか。」

「ええ二階です。でも窓の外に……窓と云ってよいんですかどうか……あのお家の三畳のように、下の方が少し壁になっておって、上はずっと鴨居のところまで、そして室一杯の広さに、四枚障子がはまっておる、広い大きな窓ですが、その窓の外に、物を置くところが、小さな縁側のように張出してあって、低い手摺がついております。