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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

引留めたのが悪かったのかなと私は気がついて、暫くして尋ねてみました。

「つい話しこんでしまって……。君には連があるんだろう。」

「いえ……なに、いいんです。」

彼は一寸狼狽した風でした。で私はすぐに勘定を払って、彼と一緒に廊下へ出て、そこで左右に別れました。

「そのうちゆっくり遊びに来給いよ。」

「ええ、上ります。」

彼は首を垂れてすたすた歩いてゆきました。

私は仕方なしに、途中から座席につきましたが、芝居が更に面白くありませんでした。芝居よりも彼のことが深く頭に刻まれていました。それで幕間になって、方々を探し廻りましたが見付かりません。次の幕間も同じことでした。そのうちに、芝居をそっちのけにして彼を探し廻ってる自分自身が、妙に白けきった馬鹿馬鹿しさで頭に映ってきましたので、私はふいに一人で笑い出して、後の幕はそのままに劇場から飛び出して、家に帰ってゆきました。

妻は私の話を聞いて、信じかねるようなまた心配そうな眼付をしました。

母上

丁度その頃です、平田伍三郎の伯父から手紙が来ましたのは。――伍三郎は此頃どんな風にしてるか知らしてほしい、夏の初めから毎月七八十円の金を送ってるのに、なお足りないと見えて、よそに嫁いってる姉から五十円六十円と送って貰ってることが分った、余り金を使うようで心配だから、よろしく御監督