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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

を頼む……というような手紙でした。

劇場で逢ったこととその手紙とで、最近の平田伍三郎の大体の様子は分りました。そして私は可なり当惑しました。

手紙には監督をたのむなどとありますが、よそに下宿してる男を監督することなんか、東京ではとても出来るものではありません。第一その男がどんなことをしているかさえ、なかなかはっきりは分らないんです。田舎では誰が何をしたかということは、すぐに皆の人に知れてしまいますが、東京ではそうはゆきません。余り沢山人間がいて、そして互に見ず知らずの他人です。その人間の渦の中に身を隠せば、容易には人に目付かりません。

私は手紙を前にして考えましたが、改まって彼を訪ねていったり呼寄せたりして角立てるのは却って悪いから、こんど彼がやって来た時にゆっくり逢って、彼の考えなり行いなりをはっきり聞いた上で、何とか方法を講じようと思いました。

そして彼を待ち受けましたが、彼はなかなかやって来ませんでした。がとうとう、劇場で逢った時から十五日ばかりたって、日曜日の午後、彼はひょっくり姿を見せた。

母上

少し冷かになりかかったのが急に逆戻りして、蒸し蒸しする生温かな南風が吹いて、頭がぼっとするような日でした。