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こうぎょのさん
香魚の讃
佐藤 垢石
「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,041 字 · 7 页
今年は川の水温が高かったので二月というのに、沼津の海から鮎の大群が上流さして遡ってきた。
長岡、修善寺、月ヶ瀬、嵯峨沢、湯ヶ島と狩野川の沿岸は温泉郷の連続である。天城の山襞から流れ出た澄明な水に育った大きな鮎が、客膳を飾るに接しては人の心に鮮味の動くを感ずるであろう。修善寺橋の上から眺める白泡の流れの底に、七寸の大ものが追いつ追われつしていたのは既に五月の末であった。六月末には八寸に育つ。
興津の名物は清見寺と、坐漁荘、枇杷ばかりではない。興津川の鮎がある。古生層の緑色斑岩を主塊となす峻峰白根三山が、太平洋へ向かって長い裾を延ばした、その襟のあたりに水源を持つ興津川の水は玉のように洒麗である。底に点々とする石の姿もいい、水垢の色も艶々しい。
崖の上の柑橘畑から淵を望むと、まどらかな眼を頭の上へちょこんとつけて、楚々として相戯れている鮎の群れは、夏でなければ求められない風景だ。やがてそこへ簑を着た漁人が来て、巖上に立った。間もなく梅雨がいたるのであろう、緑の山に灰色の雲が低く動く。
興津川の鮎は、食品として清淡なる海道随一の称があるのである。
七