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こうぎょのさん
香魚の讃
佐藤 垢石
「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,041 字 · 7 页
日本三急流の一つである富士川に育つ鮎は、また素晴らしく大きいのである。
笛吹川は甲武信岳の方から、釜無川は甲斐駒の方から、峡中を流れて鰍沢で合し、俄然大河の相を具現して湲に移り潺に変わり、とうとうの響きを打って東海道岩淵で海へ注ぎ込む。富士川下りの三十里、舟中我が臍の在りかを確と知る人は、ほんとうにまれであろう。
身延の駅を中心として下流が大島河原、上流が波高島である。ここが鮎釣りの本場であって、百匁に近い大ものが渾身の力をこめて逸走の動作に移れば鈎も糸も、ブンと飛ばしてしまう。七月に入れば、水際に近い砂原の糸遊に揺れて、腰に通い筒を下げながら幾人もの釣り人が遠くかみ手の方へ歩いて行くのを見る。
芝川、内房川、稲子川、佐野川、福士川、戸栗川、波木井川、早川、常葉川など、何れの支流も、今年は鮎が多い。四月下旬というのに若鮎は、河口から五十里も上流にある釜無川の支流塩川まで遡って行った。塩川は、甲信に蟠居する八ヶ岳の雲霧の滴りである。ここまで来れば深山の鮎だ。
支那の料理書に、甘にして薄ならず、というのがある。鮎の味品はまことにこの言葉をシンボライズしているのではあるまいか。