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うま

馬

佐左木 俊郎

「新潮」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页

青空文庫

除隊の挨拶に廻りながらも、伝平は、部落中の馬小屋を、片っ端から覗いて歩いた。

「おおら! おおら! おおら!」

そんな風に声を掛けながら、伝平は、軽く肩のところを叩いたり、無雑作に口の中から舌を掴み出したりするのだった。

そして、それからというもの、部落の馬が、病気をしたり怪我をしたりすると、伝平は、仕事を投げ出して飛んで行くのだった。伝平はいつの間にか、幾種類かの薬品や、繃帯や脱脂綿などまで持っているのであった。部落の人達も、馬で困ることがあると、すぐ伝平のところへ相談に行くようになった。伝平はすると、例えば自分の家が燃えかけているようなときでも、きっとすぐ出掛けて行くのだった。

部落では、いつの間にか彼を(伝平)とは呼ばずに(伯楽)と呼ぶようになっていた。伝平はそして(伯楽)と呼ばれることが限りもなく嬉しいらしかった。部落の子供達などは、伝平を、馬の医者のように信じきっているのであった。馬の爪切り刀などまで買い求めて、農閑のおりなど、部落の馬小屋を廻って爪を切ってやったりするからであった。伝平の、馬に就いての危なっかしい知識や技術は、最早、彼の生活を幾分かは助けているのであった。