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うま
馬
佐左木 俊郎
「新潮」1932(昭和7)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页
「談判があるど? 馬を返すって言うのか? いつだって構わねえ。今日にでも返してもらうさ。それから金の方も一緒に……」
「おっ! 旦那様! 今日はどうも少し酔っ払ってしまって……」
伝平はそう言って、すぐもう折れてしまうのだった。
「談判があるなら聞こう。」
高木はしかし睨むような眼をして言うのだった。
「談判など何もねえんでがす。ただそれ、旦那が、俺から馬を取り上げて、どこか他所へやるっていうような噂もあるもんだから、それで酔っ払い紛れにどうも……」
「順しい者にあ、儂だって、鬼にはなれねえぞ。併し、伯楽の方で、馬が……」
「旦那様! 旦那様の気持ちは、俺、底までわかってるから。」
伝平はそう言って、幾度も頭をさげながら、逃げるようにして帰ってしまうのであった。
*
併し、伝平は、四十を過ぎても、やはり、しがない暮らしで、自分の持ち馬というものが出来なかった。それに、体力の方も酷く落ちてしまって、すぐ疲労を感ずるようになっていた。女房のスゲノも、五人かの子供を産んで、何もかももう渇れきってしまっているようであった。伝平が力にしているのは、最早、伜の耕平だけであった。