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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

「高谷さん!」私はあたりをはばかりながら呼びかけた。思いなしか千代子は小走りに急ぐ、「高谷さん!」と呼ぶと、こんどは中壇に立ち止って私の方を向いたが、怪訝な顔をして口もとを手巾でおおいながら、鮮やかな眉根をちょいと顰めている。

「何ですか大槻さんがこれをあなたに上げて下さいって……」と私は名刺を差し出した。

「ああそう」と虫の呼気のように応えたが、サモきまりが悪そうに受け取って、淡暗い洋燈の光ですかして見たが、「どうもありがとう」と迷惑そうに会釈する。私はこの千代子の冷胆な態度に、ちょうど、長い夢から醒めた人のようにしばらくはぼんやりとして立ち尽した。

辛い人の世の生存に敗れたものは、鳩のような処女の、繊弱い足の下にさえも蹂み躙られなければならないのか。

翌日、千代子は化粧を凝らして停車場に来た。その夕、大槻は千代子を送ってプラットホームに降りたが、上野行きの終列車で帰った。土曜、日曜の夕、その後私は幾たびも大槻が千代子を送って目黒に来るのを見た。二人がひそひそと語らいながら、私の顔を見ては何事か笑い興ずるような時など、私は胸を刳って嬲り殺しにされるような思いがした。