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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

佳人と才子との恋はその後幾ほどもなく消え失せて大槻の姿は再び目黒の階壇に見られなくなった。例えば曠野に吐き出した列車の煤煙のように、さしも烈しかった世間の噂もいつとはなしに消えて、高谷千代子の姿はいま暮春の花と見るばかり独り、南郊の岡に咲きほこっている。

十九

その春のくれ、夏の初めから山の手線の複線工事が開始せられた。目黒停車場の掘割は全線を通じて最も大規模の難工事であった。小林浩平は数多の土方や工夫を監督するために出張して、長峰に借家をする。一切の炊事は若い工夫が交代に勤めている。私は初めて小林の勢力を眼のあたり見た、私は眼に多少の文字ある駅夫などがかえって見苦しい虚栄に執着して妄想の奴隷となり、同輩互いに排斥し合うているのに、野獣のような土方や、荒くれな工夫が、この首領の下に階級の感情があくまでも強められ、団結の精神のいかにもよく固められたのを見て、私はいささか羞かしく思うた。あらぬ思いに胸を焦がして、罪もない人を嫉んだり、また悪しんだりしたことのあさましさを私はつくづく情なく思うた。

工事は真夏に入った。何しろ客車を運転しながら、溝のように狭い掘割の中で小山ほどもある崖を崩して行くので、仕事は容易に捗らぬ、一隊の工夫は恵比須麦酒の方から一隊の工夫は大崎の方から目黒停車場を中心として、だんだん