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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

生意気な河合はちょうど演説でもするように喋る。

「ヒヤヒヤ、二三年目黒にいて時々停車場へ遊びに来るようだとなおいいだろう」と柳瀬という新しい駅夫が冷かすと、岡田が後へついて「柳瀬なんぞは知るまいがこれには深い原因があるのだね、河合君は知っているさ、ねえ君!」

「藤岡なんぞあれで一時大いに欝ぎ込んだからね」と私の方を見て冷笑する、私は思わず顔をあからめた。

姿なり、いでたちなり、婦人というものはなるたけ男の眼を惹きつけるように装うてそれでやがて男の力によって生きようとするのだ。男の思いを惹こうとするところに罪がある。それは婦人が男によって生きねばならぬ社会の罪だ。罪は罪を生む。私たちのように汚れた、疲れた、羞かしい青年は空しく思いを惹かせられたばかりで、そこに嫉妬が起る、そこに誹謗が起る、私は世の罪を思うた。

*    *    *

三月十八日は高谷千代子の卒業日、私は非番で終日長峰の下宿に寝ているつもりであったけれども、何となく気が欝いでやるせがないので、家を出るとそのまま多摩川の二子の方に足を向けた。木瓜の花と菫の花とが櫟林の下に咲き乱れている。