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こうだいじ
高台寺
宮本 百合子
「新潮」1927(昭和2)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,503 字 · 14 页
彼女はその感情をかくして、
「一寸、あんたの手見せてごらんなさい」
と云った。
「手どすか? 何でどす?」
女将は、白い木綿の襟を見せた縞の胸元を反らすようにし、自分の掌を表かえし裏かえし見た。
「まあ、一寸見せてさ」
「へえ、何どっしゃろ……偉い可愛らしい手どっせ」
肉の薄い血色のわるい掌であった。然し、彼女がたった三本だけ名を知っている掌筋のうち、恋愛の筋がいかにもよそで聞いた女将の身の上と符合しているようなので、ひろ子は少し喫驚した。
「ほらね、だからあらそわれない!」
「なんどす」
「手の筋は正直だからね、女将さんがちょいちょいは浮気すると書いてあるの」
章子が、ふっとふき出しそうになるのを手で顎を撫で上げて胡魔化し、ひろ子へ流眄を使った。章子はひろ子の魂胆を感づいたのであった。ひろ子も笑い出したが、
「本当よ、でも」
と力を入れて云った。
「そか? どれ」
章子は座布団ごとそばへずりよって来た。
「どうです女将さん、当りますか」
片手をひろ子に執られたまんま、息をのむようにし、
「こわいもんどすなあ」
そして、本気に、
「あんたはん、ほんまに手相お見やすのんどすか?――どの筋がそうどす――浮気するたらどこに書いとおす」