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かみ
髪
織田 作之助
「オール読物 十一月号」1945(昭和20)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,381 字 · 17 页
徴兵官はそれきり黙ってしまったが、やがて下を向いたまま、丙種と呟いた。はッ、帰っても構いませんか。帰ってよろしい。検査場を出ると、私は半日振りの煙草を吸いながら、案外物分りのいい徴兵官だなと思った。
その後私は何人かの軍人に会うたが、この徴兵官のような物分りのいい軍人には一人も出会わなかった。むしろ私の会うた軍人は一人の例外もないと言っていいくらい物分りが悪く、時としてその物分りの悪さは私を憤死せしめる程であった。
もっともこれは時代のせいかも知れなかった。私が徴兵検査を受けた時は、まだ事変が起っていなかったのである。
学校をよしていつまでもぶらぶらしているのもいかがなものだったから、私は就職しようと思った。しかし、私の髪の毛を見ては、誰も雇おうとはしなかった。世をあげて失業時代だったせいもあったろう。もっとも保険の勧誘員にならいくらか成り易かった。しかし私はそれすら成れなかった。私のような髪の毛の者が勧誘に行っても、誰も会おうとしないだろうと思ったのか、保険会社すら私を敬遠した。が、私は丸刈りになってまで就職しようとは思わなかった。
このような状態が続けば、私はいたずらに長い髪の毛を抱いて餓死するところであった。