轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

謡曲羽衣の一節、柄になく風流なところのある男で、大迫玄蕃が、余念なくおさらいに耽っていると、夜は戌の上刻、五ツどき、今でいう午後八時だ。風が出たとみえて、庭の立樹がゴウッ――潮騒のように鳴り渡って、古い家である、頭のうえで、家棟の震動がむせび泣くように聞えてくる。それが、おのが口ずさむ謡いの声を消してしまいそうだから、玄蕃が、一段と声を高めて……これなるまつにうつくしきころもかかれり、とやった時!

ミシ! またしても障子の外部の縁側に当って、何やら重い物が板を踏む音。

大迫玄蕃、決して臆病な男ではない。が、思わず、声を呑んで、白けた眼が、うしろざまに床の間を顧みた。そこに鹿の角の刀架けに二口の豪刀、大迫玄蕃が自慢の差料で、相州お猿畠の住人、お猿畠の佐平太兼政が火と水を取ったという、新刀中での稀代の業物の据えられてある――のはいいが、何やつの仕業か、大小ふたつとも、何時の間にか強い細引で、鞘から柄へかけて岩矢搦めに縛ってあるのだ。

はッ! とすると、玄蕃、謡本の見台を蹴倒して、部屋の中央に突っ立っていた。

無人。玄蕃の影のみ、畳の上に黒ぐろと伸び縮みをしている。