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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
いくら美人でも、お湯へはいる時は裸になることに、どうもこの時代からきまっていたようで。
檜の香のあたらしい浴室である。高いれんじ窓からたそがれのうす陽が射しこんで、立ちのぼる湯気の中に数条の縞を織り出している。
広い屋敷内はひっそりとして、ただ喬之助の弟琴二郎が、裏庭で、柿の立樹を相手に、しきりに、やッ! とウ――剣術の稽古をしている音が聞えるだけ。
据風呂を嫁は上手に跨ぐなり……川柳子、うまいことを言ったもので、からだをくの字に曲げた園絵が、スルリせり上がるように湯槽から抜け出て来て、ナニ、じぶん独りで見ているものはないのだが、それでも、あちこち隠すように流し場へ片膝つく。磨き立てて見せたい相手はいなくても、女の身だしなみだ。セッセとそこここ洗いにかかっている。白絹の膚が、湯のあたたか味でポウッと桜いろに染まり、ふくよかな肉体が様々の悩ましいポーズを作り出す。
美女入浴之図。まことにエロチックな風景……だが、この日頃、なやみの多い彼女だ。
喬之助様がいらしったら――思うのはこのことだけである。思わず、洗いかけていた手を休めて、ホッ! 小さな溜息になった時。