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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

居間の障子、その縁に向ったところに、墨黒ぐろと半紙に大書した貼紙がしてあるのだ。

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│ 忌中 │

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と、読めるのだ。頼母は、縁側の板に釘付けになったように暫らく動かなかった。動けなかった。

江戸の春は老けた。

やがて青葉若葉の初夏――それも今は、町の各所に打水がにおって、もう苗売りではない、金魚売り、すだれ売りだ。来るべき猛暑を思わせて、何となく倦い日が八百八町につづいている頃、本郷は追分のさき、俗に鰻畷と呼ばれるところに。

がっしりした瓦屋根と立樹を囲むなまこ塀の一塀、それは西丸御書院番士、長岡頼母の屋敷である。

今宵は、この長岡の家に、残りの番士一同と源助町の助勢の顔もちらほら見えて、大一座、わいわい言って神尾喬之助討取策を評議していたのだ。その最中、ちょっと自室から取って来る物があって、その寄り合いの席の奥座敷を中座し、何ごころなく、この自分の書院へ来て見た主人の頼母である。障子に手をかけてはいろうとして、発見したのだ。ギョッ! として手を引くと同時に、頼母は吸い込まれるように、その貼札に見入っていた。

室内は、明るい。燭台が点し放しになっているのだ。