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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

大迫に頭髪を預けたまま、それは屈託のない笑い声だった。

まっすぐ向いて、傍若無人に笑いつづけている。この喬之助は、一同がはじめて見る喬之助である。呆気に取られて、さすがの近江之介もしばらく黙って見つめていた。

「此刀を喰わそうか」

喬之助は、相変らず愉快そうに笑いながら、周囲の人を見渡して、帯刀の柄を叩いた。そして、立ち上った。びっくりした大迫は、とうに髷を離していた。別人のように荒々しく番衆達を突きのけて、にこにこして、喬之助はさっさと詰所を出て行った。

みなぽかんとして見送っていた。

六

はっ! とわれに返ったように、近江之介が畳を蹴立てて喬之助のあとを追おうとした。

血相を変えていた。峰淵、保利、荒木だの、左右に居た者が協力して、停めようとした。

「神尾は、確かに乱心致したとみえる。小心者のことじゃ。薬が効き過ぎたかも知れぬ。いま追うて出るは不策じゃ」

口ぐちに同じようなことを言った。

が、近江之介は、噪ぎ立つ番衆を振り切って、もう部屋を出かかっていた。こっちから仕向けた争いであることは、衆目の見たところである。それなのに、この自分が、あの若輩を恐れ入らせることも出来ず、かえって最後に、あんな人もなげな態度を取られてみると、いきがかり上、このままには済まされぬ。