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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

、たださえこの不況時代だから、長庵とお六、たちまち困って終う。そこで相談の上、お六は長庵と別れて、望み通りにカフエへ住み込む。これも、享保のむかしのことだから、カフエではない。どこかそこらの料理屋へでも仲居奉公にはいる。暫らくの間は長庵と往来もし、文通もあったのだが、そのうち、いつからともなく音信不通になって、今頃はどこにどうして居るやら?……長庵にとって、お六という女は、この大都会江戸の陰影に呑まれたきりになっているのだった。

放蕩無頼、箸にも棒にも掛らない長庵だが、この初恋の女お六だけは、その後も、何ということもなく忘れ得ずに、かくして時どき思い出している。

今も、博奕に負けて無一物、たった一枚の着物も、擦り切れないように緊縮して、家にいる時は、いつも裸で済ましている長庵だ。暑い時だから、結句これもいいと、ぼんやり蚊を追いながら考えているのは、かなり前に別れたままのお六のことである。

「粋な年増になりやがったろう。畜生め!」

と、この畜生め! で、また一匹威勢よく蚊をたたいた時、ガラリと鼻ッ先の格子を足で蹴開けて、

「何だ、何だ、粋な年増がどうしたんだ」