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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

お願いでございます。悪ものに追われまして――」

「何だい、お前さんは」

お絃は、思わず怖ろしい顔になっていた。

「この頃よく家ん前を迂路ついてる女じゃないか。どうしたっていうのさ……」

「はい――」

「はいではわからないじゃないの。悪ものに追っかけられたって、その悪ものはどこにいるのさ」

「いえ、あの、ちょうどそこまで参りますと――」

気も顛倒しているらしく、おどおどしているお妙に、知らずのお絃は、つづけさまに舌打ちをした。

「チッ! 何だろうねエまア焦れったい。あたしゃ気が短い性でね、ハキハキおしよ。お前さん、ちょうどそこまで参りますとッて、毎日毎晩、やたらにちょうどそこまで参ってるようじゃないか。いったいどこなの家は?」

お絃姐御にポンポンやられて、お妙は一層オロオロしながら、

「はい。わたくしは下谷の黒門町の……」

言いかけた拍子に、ガラリ格子をあけて、頬かむりの顔を差し入れたのは、村井長庵の一の子分――一の子分二の子分といっても、こいつ一人きりだが、とにかく戸塚の三次である。

藍微塵か何かに唐棧の半纏を引っかけて、鼻のさきに手ぬぐいを結んでいる。あまり好い人相ではない。