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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
「うむ。その神尾喬之助は何処におると申すのか。速かに言えッ!」
山城守が叱咤した時、幸吉は、だんだんぐったりとなりながら、
「あっち――」
と右手を横に伸ばしたかと思うと、だらしのないやつで、あんまり駈けつづけて来たので、そのままそこに気を失ってしまった。
「なに、直ぐ呼び返します。ちょいとわたくしが手当てを致しますれば――」
折角、あの神尾喬之助の居場所を知らせに来た者が、その肝腎の場所を言わないうちに呼吸が絶えてしまってはしようがない。気が気でないので、一同があわてふためく中で、医道の用はこの時にありとばかり、長庵は大得意だ。意識不明の幸吉を仰向けに寝かして、
「ちょいと、失礼を」
なんかと言いながら、いやに落ちついて十徳を脱ぎはじめた。いくらまやかし医者でも、幸吉の気絶ぐらいは直せるだろう。
山城守をはじめ一同は息を凝らして、長庵の手腕によって幸吉が意識を恢復し、ふたたび口をひらくのを待っている――。
そとは大暴風雨になっていた。
四
そとは大暴風雨になっていた。
で、黒門町の壁辰の家でも、早くから雨戸をしめ切っていた。乾児たちは、筆屋のふるまい酒に酔い痴れたあげく、例によって吉原へでも繰りこんだのであろう。