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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

「爺ッつぁん、何だい、エおう、喧嘩かい」そして、ゆっくりと、「待ってたぜ」

「何だねえ、お前さん、はなしも聞かないうちから」

お絃が、たしなめるように、うつくしい眉をひそめた。

お絃の笑い顔が、戸口へ向った。

「黒門町さんでいらっしゃいますか。サ、マ、お上りなすって」

壁辰のうしろに同伴者らしい人影がうごいた。

三

飛んで火にいる夏の蟲――といったところで、その夏の蟲が、神尾喬之助なんだから、そう容易と捕られもしなかったことだろうが、とにかく、知らずにはいった家が、黒門町の壁辰という、御用十手の親分の家で、すんでのことで立廻りになると見えたところを、娘のお妙の侠気と恋ごころから、あぶないところを救われたのだったが、それをまた、筆幸の息子幸吉という、おせっかいなのが、裏口で立ち聴きしていて、岡焼き半分から、忠義顔に、牛込やきもち坂甲良屋敷の脇坂山城守の許へ注進した。やきもち坂というのはこれから出たので――などというのは余談。

が、神尾喬之助の居どころを言おうとした時、あまりの疲労で意識を失った幸吉を、山城守のまえで、折から居合わせた村井長庵が呼び戻したから、この幸吉の口から、神尾喬之助の現在の居場所を知った山城守、さっそく用人を飛ばして、八丁堀へその旨を伝えた。