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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
さて、喬之助の口から、妻の園絵への思いを聞かされた、茨右近と知らずのお絃は、粋な人間だけに、察しがいい。喬之助が、いま自分の家にいることを知らせて安心もさせ、また、次第によっては、園絵をこっそり帯屋小路の家へつれて来て、久しぶりに喬之助に会わせてやろうと、思い立つと、即座に何でも実行しないと気の済まない喧嘩屋夫婦である。
出しぬけに園絵をつれて来て、驚かしてやろうという肚だから、喬之助には黙って、ふたりで出かけた。
駕籠で出かける。
二梃の駕籠をつらねて、帯屋小路の家を出たのが、ちょうど夕方だ。江戸の入陽は、大都会の塵埃に照り映えて、茜いろがむらさきに見える。鳶にでも追われているのであろう、空一めんに烏のむれが、高く低く群れ飛んでいた。
九段下へ出ようとして、俎橋へさしかかる。あの辺は、中どころの武家やしきが並んでいて、塀うちから往来へ突き出ている枝のために、昼でも暗いのである。ましてやたそがれ刻、早や、清水のような闇黒があたりを罩めはじめて、人通りはない。
先をいくお絃の駕籠が、つと路傍に下ろされた。前棒の駕籠屋の草鞋がゆるんだから、ちょっとここで締め直して行きたいというのである。