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さかなのえさ

魚の餌

梅崎 春生

「改造」1953(昭和28)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,827 字 · 10 页

青空文庫

糸の先は針ばかりになっている。餌をとられたのだ。

「バカだな。しっかりしろ」

そう言おうとして、僕はやはり言わなかった。向うも内心ジタバタしているが、別の意味でこちらもジタバタしている。その意識が急に僕の口辺を硬ばらせた。僕はそのまま背を向け、振り返らず、まっすぐに防波堤を岸の方に歩いた。防波堤は岸に近づくにつれて低くなり、満潮時だから海水に没している。膝頭までひたす海水を、はねのけるような気持で進みながら、何だかやり切れない感じがしだいに強くなって来た。子供たちからなめられたような気がしたのか、子供の所業がしゃくにさわったのか、またその所業を見逃した自分がやり切れなかったのか。そしてあいつ等は、餌を盗むのに、沢山の中からよりによってこの俺をえらんだ。どういう目安で俺に白羽の矢を立てたのか、そういうことを考えることは、あまり愉快なことではなかった。連れでもいたら、その連れに話すことで、幾分気持は軽くなるだろうが、僕はその時ひとりだった。口下手な僕は、ことにその頃は性質も湿っていて、防波堤でもどの常連とも会話すら交わしたことはなかったのだ。

まあその日から一週間ばかり経った。