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あんこういっせきわ
鮟鱇一夕話
北大路 魯山人
「独歩」1952(昭和27)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,674 字 · 4 页
欲をいえば、今少し急がず落ち着き払って経験を積まれたら、味覚界で末恐ろしいひとになるのではないかと思っている。だが、熱海でのわにの話のようなものは、猿も樹から落ちる譬えのように福島女史の図らざりし不覚であろう。
女史がKさんというわに屋からもらったという偽あんこうの件はまったく外人的で、あんこうに対する彼女の無知、無経験が生んだナンセンス。おかしくておかしくて、その無邪気さに一時笑いがとまらなかった。
偽あんこうを贈ったKさんは、もとよりわにのつもりで女史の不在中においていったらしい。Kさんはわにの死肉だけを一片持って、相手をたぶらかさんものとなめてかかり、彼女も一応ひっかかってしまったのであるからおもしろい。「そのひとを知らんと欲せば、まずその友を見よ」というところである。
わには知らないが、もともとあんこうという魚は、鍋料理にするとすてきにうまい魚である。脂肪、ゼラチンに富んでいて、なかなかしゃれた食べ物である。ざらにある魚でありながら、鍋料理中もっとも乙なものとされ、高級層にも下級層にも賞味されている。しかも、それが骨以外捨てどころのないという魚で、肉を除いてはことごとくうまいところだらけである。