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すし
鮨
岡本 かの子
「文芸」1939(昭和14)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,272 字 · 26 页
ただ男に対してだけは、ずばずば応対して女の子らしい羞らいも、作為の態度もないので、一時女学校の教員の間で問題になったが、商売柄、自然、そういう女の子になったのだと判って、いつの間にか疑いは消えた。
ともよは学校の遠足会で多摩川べりへ行ったことがあった。春さきの小川の淀みの淵を覗いていると、いくつも鮒が泳ぎ流れて来て、新茶のような青い水の中に尾鰭を閃めかしては、杭根の苔を食んで、また流れ去って行く。するともうあとの鮒が流れ溜って尾鰭を閃めかしている。流れ来り、流れ去るのだが、その交替は人間の意識の眼には留まらない程すみやかでかすかな作業のようで、いつも若干の同じ魚が、其処に遊んでいるかとも思える。ときどきは不精そうな鯰も来た。
自分の店の客の新陳代謝はともよにはこの春の川の魚のようにも感ぜられた。(たとえ常連というグループはあっても、そのなかの一人々々はいつか変っている)自分は杭根のみどりの苔のように感じた。みんな自分に軽く触れては慰められて行く。ともよは店のサーヴィスを義務とも辛抱とも感じなかった。胸も腰もつくろわない少女じみたカシミヤの制服を着て、有合せの男下駄をカランカラン引きずって、客へ茶を運ぶ。