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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
そしてその山見廻りは、麻植、板野の里あたりの原士が交代で詰めることになっている。
甲賀世阿弥。
今――このつるぎ山の奥に、めッたにない人語を聞いたので、吾を忘れて、瘤山の柵ぎわまで駈け下りたが、別に、なんぞこれという目的があったのではない。ただ、その人影へ本能的に引きよせられたまでのこと。
ちょうど身の丈ぐらいな這松やつつじが、うまく体を蔽い隠したので、そのままジッと、柵の外を眺めていると、さっき倶利伽羅坂の上にみえた二人が、依然と、はばかりない高声で話しながら、すぐ流れの向うへまできて、爼板岩の端へ腰を下ろした。
「啓之助、啓之助」
まるで、家来でも呼びつけるように、またそこでこういったのは、蜂須賀家の永居候、竹屋三位卿であった。
「諦めてやろう。それほどまでに頼むなら――」
「お、では、つるぎ山踏破のこと、お見合せ下さいますか」
と初めて、ホッとしたらしく答えたのは、阿波守、三位卿などとともに、昨年大阪表の安治川から、卍丸でこの阿波の国元へ帰っている森啓之助なのである。
あの時、森啓之助は、脇船の底に一個の長持を積んで阿波へ帰った筈だ。その長持の中には、たしかに、川長のお米が隠してあった筈――。