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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

ぶ、武士らしくもないッ」

「お千絵といい、墨屋敷の財宝も、今ではみんな幻滅となってしまった。その揚句に命がけで、万吉や弦之丞を狙ったところで、何の埋合せにもなりはしない。拙者はもうここでお別れいたすよ。江戸へ帰って寝ていた方がはるかましだ」

「その無念を晴らすがいいではないか。その怨みを!」

「でも――親の仇ではないからなあ」

周馬が歪んだもの言いぶりに、一角はムッとなって、

「だれが親の仇だといった?」

煙管を片手にもって立ち上がった。

相手が、胸板へ迫ってきた血相に、周馬は少し言いすぎたことを後悔したが、行きがかりとなった唇は心と反対に動いて、

「うわッ面なあげ足をとるな! それまで深い遺恨はもてぬといったまでの分ではないか」

「ばかなッ」と、一角はそれを睨み返した。

「では、なぜ、江戸を立つ前にそういわぬか。ここまで来た旅先で、面白くもないケチをつける奴だ」

「ケチはつけんよ、ただ旅川周馬一個人の立場について言明しているのだ」

「臆病風にさそわれてきたのだろう。江戸表にいるうちは、貴様も吾々と合体して、どこまでも、法月弦之丞を討つと誓い、また、万吉も生かしてはおけぬと罵っていたではないか」