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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

「そうか、では目付屋敷の、執務所の縁がわへ行って控えているがいい。何の用事かしらぬが、後からまいってきいてやる」

「ありがとう存じます。やれやれ、これでわっしもホッと致しやした。何だッて、この山奥まで尋ねてきて、面会は相ならんなどと、木戸を突かれた日にゃ御難ですからネ」

脱いだ合羽を片腕に垂らして、お米のほうへ目をくれながら、自然石の石段を上って、向うの役宅の庭へ廻って行った。

と、啓之助は、それを待ちかねて、すぐに門の外へ出た。そして、サッサと向うの樹蔭へ行ってから、お米を目でさし招いた。

「どうしたというのだ、お前は? 勝手に出歩いてはならぬというのに、このような役向きの所へ何しにきた。また、連れてくる宅助も宅助じゃ」

こう咎めたが、啓之助の挙動は、むしろ、お米が不意に来たよろこびに、落ちつかないほどなのである。

誰にも内緒にしている匿し女が、役向きの出先へ不意にやって来たので、啓之助は、こそぐッたいよろこびと舌打ちしたいような困惑を感じた。

目付屋敷には、まだ竹屋三位がいるので、そこへ曰くのあるお米を連れこむことはできないし、逢曳のように外でひそひそと話しているのは、なおさら外聞にかかわる。