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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

「お米、わしもにわかに、御城下へ帰る都合になったから、すぐに支度をせい」

「え、これからすぐに」

「ウム、空も少し曇り模様、明日とのばして雨にでもなると困る。疲れたであろうがすぐに立とう」

「いいえ、まだ歩けないほどではございません」

隠れていた藁ぶとんの蔭から、そういいながら、襟をかきあわせて立ったお米は、徳島へではなく、大阪表へ早く帰れる都合になったうれしさを、思わず顔に出している。

酔いと疲れで、だらしなく寝込んでいた仲間の宅助、にわかに起こされてうろたえながら、またわらじの緒を結びなおして、裏道から四、五丁出てゆくと、啓之助は菅笠に霰の打ッさき羽織で、先に廻って待ちあわせていた。

「もし家中の者に出会ったら、わしの側を離れて、素知らぬ振りをしてゆくがよい。吉野川へ出れば下りの舟、乗ってしまえば別に人目の心配はないわけだが」

匿し女を持っているのも、なかなか細心でなければならぬ。啓之助は歩きながら、たまたまくる里の百姓にも気を配って、お米と道をひとつにして行く。

「徳島へつくと、わしは屋敷へも寮へも寄っている暇がない。さッきお前が聞いていた通りの事情で、すぐに登城して殿へ委細の報告をせねばならぬから――。