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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「今し方のこと、当家へわらじをぬいだ男女がある筈、それをここへ呼びだして貰いたい」
「おまちがいではございませんか……私どもには、いっこうそんなお客様は」
「隠すな! たしかに見届けてまいったのだ」
「いえ、決して、隠しなどを」
「では出せ、その者をこれへ出せ!」
「でも、そういうお客様は、ハイ、今し方ならなおのこと、男女づれのお泊りはございませぬ」と、一角の威嚇を巧みにうけて、どこまでも善七が言いぬけていると、側にみていたお十夜が、ちぇッと、歯がゆそうに癇を起こして、
「やい、亭主、甘くみてたかをくくっていると、気の毒だが、土足で家探しという荒療治になるぞ、いくら茶代をハズまれたかしらねえが、それとこれと、どっちが算盤玉に合うか、よく考えて返辞をしろ」
これはまるでムキ出しな浪人伝法。一角ほど肩肱は張らないが、その代りに、黙って刀が先にものをいいそうだ。
大湯の八間燈や宿屋の軒行燈にちょうど灯の入る刻限なので、退屈な温泉の客と入りこんでくる旅人が、たちまち輪になって、会田屋の前をふさいでしまった。
「見世物ではないぞ、なんでそこらに立つか! あっちへ行け、あっちへ行け」