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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
周馬もどてらになり、一角もどてらに着かえたが、お十夜は着流しなので、あえてその必要もなく、茶をすすっていると、それを残して、二人はいつのまにか外の温泉につかってきた。
「なかなかいい温泉だ、お十夜も一風呂ザッと浴びてこないか」
「おれは後で行くよ、寝しなに」
膳がくる。蜆汁の椀、鯉のあらい、木の芽田楽、それに酒。
信州路へ入って、鯉の料理にお目にかからない日はないぞ――といいながら、周馬が椀をチュッとすすって、うむ、こいつはいい、諏訪湖の味がするぞという。
このあたりで古い歴史のある俚謡、木曾ぶしの絃歌が、赤く曇った湯気の町にサンザめきだす頃になると、
「どうだ、ひとつよぼうか」
と周馬がぬけめのない提案をもちだすと、「なにを?」と一角が通じない反問をする。
「なにをって、すなわち、唄い女をさ」
返辞をしないで一角は、またのび上がって会田屋の門口を見おろしていた。お十夜は何をおかしく感じたか、周馬の顔をみて苦笑をもらし、それを隠すべく杯をさした。
平凡なる一夜をすごして、翌朝、起きるやいな、見張りを頼んでおいた宿の者をよんで、会田屋の男女が立ったかどうかを問いただすと、まだたしかに落ちついているという返辞。