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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

お十夜! こんにゃく問答をしている場合ではあるまい、すぐに行こう!」

自来也鞘の下緒をしごいて、一角が性急にそこを出たので、孫兵衛もまた、周馬をすてて梯子を下り、周馬もまた、いやおうなくついて、宿の外へ飛び出した。

深夜、人なき浴槽に身をひたして、こんこんと噴きだす温泉のせせらぎに耳心を洗いながら、快い疲れをおぼえていた法月弦之丞は、やがて湯から上がって衣類をつけなおした。

常木鴻山と松平左京之介のほかは、誰も知らぬまに、代々木荘を出立したかれである。日程にすれば、もうとくに美濃路に入っている筈だが、道者船にのりあわせるには、向うでだいぶ待つことになるので、わざと道を迂回して、屋代上田などに旧知の剣友をたずね、さながら的なき旅をするもののように、今日も夜にかけて峠を越え、この温泉町に辿りついたのを幸いに、自然の報謝をうけて、旅の垢を洗っていたのだ。

さて、久しぶりに爽快な気を味わったが、時刻はいたって都合が悪い、もう夜半もすぎてやがて五更になる頃おい、宿をとる間はなし、といってこれから塩尻の高原へかかるのも早過ぎる気がするし? ……。

ままよ、かりそめにせよ、普化僧の法衣を借りてある以上は、樹下石上も否むべきではない。