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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

の金具をかぶせ、こいつをひとつ源内櫛と銘をうって花柳界に流行らせてみたら面白かろうとか、それからそれへ、とめどもなくしゃべりつづける。

おかげでお綱と万吉は、数里の道のりをいつのまにか歩いたが、御岳の薬草やお六櫛のことなどは、二人の旅に他山の石ほどの値打もない。だが、どうせ歩く道はひとつなので、その晩は須原の駅に泊りをとって、同じ部屋にくつろぐと、晩酌の話にまた源内流の旅行要心談がでる。

まず駅舎へついたら、土地の東西南北、宿の雪隠や裏表を第一に睨んでおくこと。刀脇差はこじりを背中で挟むくらいに床の下へさしこんで寝ること。隣座敷でする碁将棋の音や浄瑠璃などには決して口をつりこまれぬこと。またこういう物を持って歩くと便利だよと、智慧の環のような金具を出して五ツの鈎に解き放し、それを長押へ一つずつ懸けて、笠、衣類、合財袋、煙草入れ、旅の身上をのこらずこれに吊ってみせる。

駕に酔ったのは船暈より気もちが悪い。酔い癖のある者は駕の戸をあけて乗るがいい。ムカムカ頭痛がしてきた時には、熱湯に生姜の絞り汁を入れて呑む。ことに女は鳩尾をシッカリと締めて乗ることだ、とこれはお綱のほうへ向いていった。