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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

あやしげな呼子の音に、万吉はぎょッとしてお綱に目くばせした。そして高札の前を離れるやいな、のめるようにもちの木坂を駈け上がった。

とたんに崖の両側からバラバラと飛び下りて来た野袴の武士、前をふさいで十人あまり、いずれも厳重な草鞋がけ、柄頭をそろえて、

「待てッ」

坂の上から押しかかって、二人を前の場所まで突き戻してきた。

とみれば、中腹の平地にも、三々伍々の人影が草や石に腰を下ろして、その光景を眺めている。都会の武士らしからぬ言語風俗、まぎれもなくこの者たちは、阿波の国から急行してきたか、あるいは命をうけて安治川の阿州屋敷から出張ったものか、いずれにせよ蜂須賀の原士なるには相違ない。

「おい! こっちへ――」

ヌッと立ってさしまねいたのは、最前呼子を吹いた原士、坂の上から押し戻してきた者たちへこういって、一同草原のまん中に待ちかまえていると、お綱は利腕を取られ、万吉は万吉でその襟がみをつかまれたまま、否応なくそこへ取り囲まれてきた。

「貴様だろう! 江戸表から阿波へまぎれ込もうとしてきた目明しの万吉はッ。ウヌ、そこにいるのこそ見返りお綱という女に違いない。