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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「あっ」
と万吉、もう言いのがれの及ばぬはめ、手を振りきって立とうとすると、原士の者と一緒にうしろに立っていた旅川周馬が、
「どこへ行く」
たぶさをつかんで後ろへ仆した。
それを眺めながら、孫兵衛、手も出さずに苦笑いをかすめさせて、
「よせよ、万吉、そのジタバタが野暮というものだ。てめえも天満の万吉とかいって、二十五万石の大国へ十手を振りあげた男じゃねえか。その上望みどおりに剣山で、生涯終らしてやるという迎えの御人数へ、手対いをしては罰があたるぞ」――孫兵衛の言葉が続いているうちであった。もちの木坂の裏道から、樹葉を分けて駈け登ってきた編笠の男。
息がきれたか、途中の岩石に立ち、ホッと麓のほうへ眼をつけていたが、やがてまた、栗鼠のごとき素早さで、岩や根笹をつかみながら、一同のいる平地の一端へその姿を躍り立たせた。
何か? ――という気色で、皆の眼がハッとそれへ惹きよせられていると、編笠の男はさらにそこでも下のほうへ向って、耳へ手を当てていたが、
「方々、静かにしろ!」と手を振った。
そして一足跳びに疾走してきながら、編笠をそこへ叩きつけ、意気軒昂な眉をあげて、