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とびとかきととり

鳶と柿と鶏

豊島 与志雄

「知性」1939(昭和14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页

青空文庫

二

」

吉村は愉快そうに云ったが、李は別に悄気るでもなく得意がるでもなく、平然としていた。

柿を食べてから三人で、海辺を少し歩いた。

「先生、お仕事は、お捗りになりまして。」

先刻のことも忘れて、君枝はそんなことを聞くのだった。だが、李は感じているのかいないのか、吉村と君枝とが前から識ってる間であるばかりか、此処でも既に往来してることが、態度や会話に明瞭に現われても、一向気に留めてる風もなかった。

二

君枝は吉村の宿を訪れるのを遠慮していたらしく、吉村が最初に訪れた後、一度訪れて来、それからちょっと庭先に来たきりだったが、其後は、李と二人で、しばしば吉村の宿に遊びに来たり、散歩に誘いに来たりした。その地で吉村は、ただがむしゃらに、原稿紙に文字を埋めることにかかっていて、構想や夢想に耽ってる場合でなかっただけに、次第に、二人へのおつきあいの時間が惜しまれてきた。

吉村がこちらに来て上山君枝を訪れたというのも、実は病気見舞かたがた、といっても彼女の肺患は軽微なもので、まあ謂わば、その心境打診のためもあったのである。君枝の良人の正彦は吉村の旧知で、君枝が随筆風な或は小説風なものを書き綴るようになってから、吉村さんにでも見て貰ったらと口を利いたのが正彦だった。