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からすとしょうか
鴉と唱歌
寺田 寅彦
「野鳥」1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,095 字 · 3 页
しかし、これだけでは鴉が音の拍節を聴き分けるという証拠には勿論ならない。第一、この映画を撮影している人々が画面の此方に大勢いるはずである。その人々の中であるいは指揮棒でも振って老人の歌の拍子をとっているコンダクターがいるかもしれないとすると、鴉はその視覚に感ずるある運動する光像のリズムに反応しているのかもしれない。あるいはまた、誰かわざわざ鴉にそうした芸当をさせるために骨を折って何かしら鴉の注意に働きかけているのかもしれないのである。それよりも、もっと直接に、唄っている老人の膝自身が歌の拍子に従って動くために鳥の神経にそれだけの刺戟を与えているのかもしれない。尤も映画で見られるほどの運動は老人の膝に認められないが、微細な波動がないとは云われないのである。
しかし、また一方から考えると、元来多くの鳥は天性の音楽家であり、鴉でも実際かなりに色々の「歌」を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動物園にいたある大鴉などは人が寄って来ると“Who are you ?”と六かしい声で咎めるので観客の人気者となったという話である。そんなことから考えると、鴉がすぐ耳元で歌っている歌に合わせて頸を曲げるぐらいは何でもないことかもしれない。