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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
在线阅读小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 页
車といっても近頃は間に合わないので、省線、目蒲線と乗継いで行くのが、もどかしくて仕方がありません。駅を下りてからの長い桜並木は、まだ莟が堅くて、籬の中には盛りの過ぎた白梅が、風もないのにこぼれておりました。
枕元に坐ってさし覗きますと、ただ静かに睡っているようですが、もうこの世の人ではありません。拝をしてから額に触って見ましたら、氷のような冷かさ。それが電気のように沁み渡ります。つい十日ほど前に、熱いお雑炊を、ふうふう吹いていた横顔が目に浮びました。涙と香の煙の立迷うのとで、そこらはただ朧気に見えました。
遺骸にはさっぱりした羽二重の紋附が著せてありましたが、それはお兄様の遺物でした。納棺の時に、赤い美しい草花を沢山取って来て、白蝋のような顔の廻りを埋めたのが痛々しく見えました。私はそっと紙と鉛筆とを入れました。いつも身に附けていたものですから。
書斎には蔵書が書棚に溢れ、また昔からの趣味で、あらゆる物を切抜いて貼附けたのが山を成しています。もはやそれを読む人も、整理する人もないことを思いますと、またしても目頭が熱くなりました。
それから毎日のように潤三郎の家へ行きます内に、並木の桜の花が咲き、それがまた忽ち盛りを過ぎて、目蒲線を往復する電車の屋根を白くするようになりました。