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かもめ

鴎

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页

青空文庫

よいしょと、水たまりを飛び越して、ほっとする。水たまりには秋の空が写って、雲が流れる。なんだか、悲しく、ほっとする。私は、家に引き返す。

家へ帰ると、雑誌社の人が来て待っていた。このごろ、ときどき雑誌社の人や、新聞社の人が、私の様子を見舞いに来る。私の家は三鷹の奥の、ずっと奥の、畑の中に在るのであるが、ほとんど一日がかりで私の陋屋を捜しまわり、やあ、ずいぶん遠いのですね、と汗を拭きながら訪ねて来る。私は不流行の、無名作家なのだから、その都度たいへん恐縮する。

「病気は、もう、いいのですか?」必ず、まず、そうきかれる。私は馴れているので、

「ええ、ふつうの人より丈夫です。」

「どんな工合だったんですか?」

「五年まえのことです。」と答えて、すましている。きちがいでした、などとは答えたくない。

「噂では、」と向うのほうから、白状する。「ずいぶん、ひどかったように聞いていますが。」

「酒を呑んでいるうちに、なおりました。」

「それは、へんですね。」

「どうしたのでしょうね。」主人も、客と一緒に不思議がっている。「なおっていないのかも知れませんけれど、まあ、なおったことにしているのです。