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かもめ

鴎

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页

青空文庫

一片の愛国の詩も書けぬ。なんにも書けぬ。ある日、思いを込めて吐いた言葉は、なんたるぶざま、「死のう! バンザイ。」ただ死んでみせるより他に、忠誠の方法を知らぬ私は、やはり田舎くさい馬鹿である。

私は、矮小無力の市民である。まずしい慰問袋を作り、妻にそれを持たせて郵便局に行かせる。戦線から、ていねいな受取通知が来る。私はそれを読み、顔から火の発する思いである。恥ずかしさ。文字のとおりに「恐縮」である。私には、何もできぬのだ。私には、何一つ毅然たる言葉が無いのだ。祖国愛の、おくめんも無き宣言が、なぜだか、私には、できぬのだ。こっそり戦線の友人たちに、卑屈な手紙を書いているだけなのである。(私は、いま何もかも正直に言ってしまおうと思っている。)私の慰問の手紙は、実に、下手くそなのである。嘘ばかり書いている。自分ながら呆れるほど、歯の浮くような、いやらしいお世辞なども書くのである。どうしてだろう。なぜ私は、こんなに、戦線の人に対して卑屈になるのだろう。私だって、いのちをこめて、いい芸術を残そうと努めている筈では無かったか。そのたった一つの、ささやかな誇りをさえ、私は捨てようとしている。