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かもめ

鴎

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页

青空文庫

戦線からも、小説の原稿が送られて来る。雑誌社へ紹介せよ、というのである。その原稿は、洋箋に、米つぶくらいの小さい字で、くしゃくしゃに書かれて在るもので、ずいぶん長いものもあれば、洋箋二枚くらいの短篇もある。私は、それを真剣に読む。よくないのである。その紙に書かれてある戦地風景は、私が陋屋の机に頬杖ついて空想する風景を一歩も出ていない。新しい感動の発見が、その原稿の、どこにも無い。「感激を覚えた。」とは、書いてあるが、その感激は、ありきたりの悪い文学に教えこまれ、こんなところで、こんな工合に感激すれば、いかにも小説らしくなる、「まとまる」と、いい加減に心得て、浅薄に感激している性質のものばかりなのである。私は、兵隊さんの泥と汗と血の労苦を、ただ思うだけでも、肉体的に充分にそれを感取できるし、こちらが、何も、ものが言えなくなるほど崇敬している。崇敬という言葉さえ、しらじらしいのである。言えなくなるのだ。何も、言葉が無くなるのだ。私は、ただしゃがんで指でもって砂の上に文字を書いては消し、書いては消し、しているばかりなのだ。何も言えない。何も書けない。けれども、芸術に於いては、ちがうのだ。