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かもめ
鴎
「知性」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页
何が「私だって」だ。嘘も、いい加減にしろ。おまえは、いま、人間の屑、ということになっているのだぞ。知らないのか。
私は、それを知っている。いやになるほど、知らされている。それだからこそ、つい、つまずいてしまうのだ。私は、五年まえに、半狂乱の一期間を持ったことがある。病気がなおって病院を出たら、私は焼野原にひとりぽつんと立っていた。何も無いのだ。文字どおり着のみ着のままである。在るものは、不義理な借財だけである。かみなりに家を焼かれて瓜の花。そんな古人の句の酸鼻が、胸に焦げつくほどわかるのだ。私は、人間の資格をさえ、剥奪されていたのである。
私は、いま、事実を誇張して書いてはいけない。充分に気をつけて書いているのであるから、読者も私を信用していいと思う。れいのひとりよがりの誇張法か、と鼻であしらわれるのが、何より、いやだ。当時、私は、人から全然、相手にされなかった。何を言っても、人は、へんな眼つきをして、私の顔をそっと盗み見て、そうして相手にしないのだ。私についての様々の伝説が、ポンチ画が、さかしげな軽侮の笑いを以て、それからそれと語り継がれていたようであるが、私は当時は何も知らず、ただ、街頭をうろうろしていた。