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がちょう
鵞鳥
幸田 露伴
「日本評論」1929(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页
女は上機嫌になると、とかくに下らない不必要なことを饒舌り出して、それが自分の才能ででもあるような顔をするものだが、この細君は夫の厳しい教育を受けてか、その性分からか、幸にそういうことは無い人であった。純粋な感謝の念の籠ったおじぎを一つボクリとして引退ってしまった。主人はもっと早く引退ってもよかったと思っていたらしく、客もまたあるいはそうなのか、細君が去ってしまうとかえって二人は解放されたような様子になった。
「君のところへ呼びに行きはしなかったかネ。もしそうだったら勘弁してくれたまえ。」
「ム。ハハハ。ナニ、ちょうど、話しに来ようと思っていたのサ。」
主客の間にこんな挨拶が交されたが、客は大きな茶碗の番茶をいかにもゆっくりと飲乾す、その間主人の方を見ていたが、茶碗を下へ置くと、
「君は今日最初辞退をしたネ。」
と軽く話し出した。
「エエ。」
と主人は答えた。
「なぜネ。」
「なぜッて。イヤだったからです。」
「御前へ出るのにイヤってことはあるまい。」
ホンの会話的の軽い非難だったが、答えは急遽しかった。
「御前へ出るのにイヤの何のと、そんな勿体ないことは夢にも思いません。