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がちょう
鵞鳥
幸田 露伴
「日本評論」1929(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页
「さればサ。功名手柄をあらわして賞美を得た話は折々あるが、失敗した談はかつて無い。」
自分は今天覧の場合の失敗を恐れて骨を削り腸を絞る思をしているのである。それに何と昔からさような場合に一度のあやまちも無かったとは。
「ムーッ。」
と若崎は深い深い考に落ちた。心は光りの飛ぶごとくにあらゆる道理の中を駈巡ったが、何をとらえることも出来無かった。ただわずかに人の真心――誠というものの一切に超越して霊力あるものということを思い得て、
「一心の誠というものは、それほどまでに強いものでしょうかナア。」
と真顔になって尋ねた。中村はニヤリと笑った。
「誠はもとより尊い。しかし準備もまた尊いよ。」
若崎には解釈出来なかった。
「竜なら竜、虎なら虎の木彫をする。殿様御前に出て、鋸、手斧、鑿、小刀を使ってだんだんとその形を刻み出す。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。たとい有ったにしても、何とでも作意を用いて、失敗の痕を無くすことが出来る。時刻が相応に移る。いかに物好な殿にせよ長くご覧になっておらるる間には退屈する。そこで鱗なら鱗、毛なら毛を彫って、同じような刀法を繰返す頃になって、殿にご休息をなさるよう申す。