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がちょう

鵞鳥

幸田 露伴

「日本評論」1929(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,335 字 · 23 页

青空文庫

殿は一度お入りになってお茶など召させらるる。準備が尊いのはここで。かねて十分に作りおいたる竜なら竜、虎なら虎をそこに置き、前の彫りかけを隠しおく。殿復びお出ましの時には、小刀を取って、危気無きところを摩ずるように削り、小々の刀屑を出し、やがて成就の由を申し、近々ご覧に入るるのだ。何の思わぬあやまちなどが出来よう。ハハハ。すりかえの謀計である。君の鋳物などは最後は水桶の中で型の泥を割って像を出すのである。準備さえ水桶の中に致しておけば、容易に至難の作品でも現わすことが出来る。もとより同人の同作、いつわり、贋物を現わすということでは無い。」

と低い声で細々と教えてくれた。若崎は唖然として驚いた。徳川期にはなるほどすべてこういう調子の事が行われたのだなと暁って、今更ながら世の清濁の上に思を馳せて感悟した。

「有難うございました。」

と慄えた細い声で感謝した。

その夜若崎は、「もう失敗しても悔いない。おれは昔の怜悧者ではない。おれは明治の人間だ。明治の天子様は、たとえ若崎が今度失敗しても、畢竟は認めて下さることを疑わない」と、安心立命の一境地に立って心中に叫んだ。