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つるはやみき
鶴は病みき
岡本 かの子
「文学界」1936(昭和11)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页
それにしても麻川氏が私に「うしろ暗さ。」を懸念するような事は差し当り何だろう。強て想い出そうとすれば一週間ばかり前の「美人問答。」の折の氏の執拗さだ。氏が自分から私に押したあの時の執拗さに反発され、それが氏に創痍を残していることが想像される。
一週間ばかり前のひるすぎ、麻川氏と私の話は「女性美。」というような方へ触れて行った。麻川氏「女の本当の美人なんてものは、男と同じように仲々尠いですね。しかし、男が、ふと或る女を想いつめ、その女にいろいろな空想や希望を積み重ねて行くとその女が絶世の美人に見えるようになって来ますね。そして、その陶酔を醒したくないと思いますね。その方が男にとって幸福ですからね。女から紅や、白粉を拭い取って、素顔を見るなんか私にはとても出来ない事です。だが、それだって好いじゃないですか。それだって。」氏の言葉の調子は、いくらかずつ私をきめつけてかかる。私は「そうですとも。」と相槌を打った。すると麻川氏は「ほんとうにそう、思うんですか。」とますます私を極め付ける。私「ええ。」麻川氏「本当に……じゃあ何故あなたは……何故……。」「何ですか」